ケンドリック・ラマーと人種問題

 Music.Micで、ケンドリック・ラマーの人種問題に関する発言や曲の内容がものすごい論争となっていることが紹介されているのでまとめてメモっておきたい。

 


Kendrick Lamar Just Celebrated His Grammy Wins by Releasing This Brilliant Single - Mic

 

 グラミー賞でみんながカニエの話題で大騒ぎしている間に、グラミー賞の前日におこなわれるプレショー(今年はNOKIAで行われた)で、ケンドリック・ラマーの"i"が「ベスト・ラップ・パフォーマンス」賞と「ベスト・ラップ・ソング」賞を獲得していたらしい。ちなみにこのプレショーには受賞者はほとんど参加せず、だいたい代理人がトロフィーを受け取るらしい。

 この発表のすぐ後に、ラマーは "The Blacker The Berry"という曲を発表。その内容が、かなり微妙な意味を持ったものであったとのこと。この記事で紹介されているのは、こういう歌詞。

"So why did I weep when Trayvon Martin was in the street? / When gang-banging make me kill a nigga blacker than me? / Hypocrite!"

 つまり、Trayvon Martin(2012年2月に白人に銃殺された17歳の少年)が通りをぶらぶらしていて殺されてしまったニュースを聞いて泣いたなんて、なんでそんなことができたんだ?だってギャングみたいなことして(薬売ったり、ドライブバイ(車から銃をぶっ放すこと)したり、ライバルを殺したり)自分より黒いニガーをいつだって殺してないか?偽善者じゃねーか!

みたいなもんだろか。

 記事によれば、この歌詞が、それより前のビルボード誌によるインタヴューでの次のような発言とぴったり一致するものだった。

"But when we don't have respect for ourselves, how do we expect them to respect us? It starts from within. Don't start with just a rally, don't start from looting — it starts from within."

 だって、自分たちを尊敬できないのに、なんで彼らが俺らを尊敬してくれるなんて思うんだい?内側から始めなきゃ。ただ集会するとか、人からものを強奪するとか、そんなところから始めるんじゃないんだ。中から始まるんだよ。

ってことだろか。

 これらの発言はものすごい議論と反論を招いたらしく、なかでもアメリカの女性ラッパー、アジーリア・バンクスは「黒人の男の発言のなかで一番くそったれ」「あんた、貧困とか、人種主義とか、人種分離とかの何世代にも及ぶ影響って知らないワケ?」とツイッターで毒づいたらしい。

 この記事は、もちろんラマーはそんなことわかっているし、これまでの曲でも構造的な差別について言及したものはいくらでもあると擁護しており、こんな有意義な議論を巻き起こすなんて、やっぱ彼の才能は比類なきものだね!と能天気に締めくくるのであった。

 ビルボードのインタヴューを読んだけれど、ラマーの幼少期はそれはそれは貧しかったようで、数えきれないくらいレイシャル・プロファイリング(とくに有色人種を選別的に職務質問すること)を受け、何人もの知り合いや友人がギャングの抗争だとかなんだとかで死んだようでもある。good kid, M.a.a.D.cityは、そういった暗い緊張感が漂っていたようにもおもう。どっちがいいとかではなく、同じコンプトンでも、アイス・キューブのような自由で野放図な感じがしない(ただの印象)。世代の違いだろうか。もう少し慎重に考えたほうがいい複雑な問題をたくさん提起しているようにおもえる。