とりあえず事実だけ

 Kalief Browderの事件とチャールストンでのテロリズムを経てこの間、実にさまざまなことがあって、いろいろ複雑なので、いろんな疑惑や違和感をはっきりさせるために、ちょっと整理のためのメモをしたい(ぜんぶ曖昧)のだが、まずは次の引用を書き留めておきたい。奴隷解放に尽力した元奴隷フレデリック・ダグラスの演説を聞いて感銘を受けたウィリアム・ロイド・ギャリソンは、ダグラスが奴隷制度の残虐さの本質を述べている点を次のようにまとめた。

 

・・・奴隷であるにしろ自由黒人であるにしろ、黒人の目撃者の証言で、奴隷所有者や監督が、どんなにひどいものであっても、奴隷の体に加えた暴行で有罪と宣告されることはありえない、ということを忘れないようにしよう。奴隷取締法によって、彼らは、まるで実際獣類の一部であるかのように、白人に対して不利な証言をする資格はない、と考えられているのだ。したがって、奴隷に対しては、形式上いかなるものが存在するにせよ、実際には法的保護は存在しないのである。それゆえ、彼らにはどんな量の残虐さを加えても、罰せられることはないのだ。人間の心にとって、これ以上に恐ろしい社会状態を考えることは不可能であろう。(『数奇なる奴隷の半生 フレデリック・ダグラス自伝』(岡田誠一訳、りぶらりあ選書/法政大学出版局、1993年)、11頁)

 

 このさい、なぜいまさらフレデリック・ダグラスなのかということはどうでもいいことだし、『現代思想』のある特集でコーネル・ウエストとマルコムXとパレーシアについて書かれた文章があるとひとに教えてもらって、パレーシアがマレーシアに聞こえて、コーネル・ウエストがマルコムXというのは繋がるけど、マルコムXとマレーシアってなに、斬新!と無知でトンチンカンな応答をしてしまったということも同じくらいどうでもいいことで、要はコーネル・ウエストのBlack Prophetic Fireのトップバッターで挙げられているフレデリック・ダグラスの人物描写があまりにおもしろすぎてもう一度読み返したというだけのことなのだが、この文章はこの間の黒人をめぐるアメリカの危機的としかいいようのない状況のことを言っているとしか思えなかったのだ。

 

 それで、この間見聞きした状況とは何かと言うと、何からメモっていいのかわからないが、とにかく凄まじく恐ろしくおぞましく残酷な状況が繰り広げられているという事実をまず確認したい。サイコパステロリスト野郎が9人もの尊い命を奪った後でバーガーキングでランチを与えられている一方、毎日ハッシュタグのついた黒人の名前と写真を見ない日は無く、それが意味するものはもちろん、そのひとたちは警官に、白人に、何ものかに、殺されたということだ。ファーガソンから1年目のプロテストで12歳の黒人の女の子が理由もなく逮捕された、14歳の黒人の男の子が警察から7発の銃を体に打ち込まれて一命はとりとめたものの両親は医療費の工面に困っている、トランスジェンダーの黒人が何人も殺されている、デートしていた白人の女の子と黒人の男の子の高校生カップルが行方不明になっている、妊娠している黒人女性が警官に殴られた、公衆の面前で、そして警察のいる前で黒人女性のうえに馬乗りになって暴力を振るうロクデナシ白人男、でも誰も何もしない、などなどなどなど、もう多すぎて覚えておくことすら不可能。そしてここのところ一番目にしたのは、活動家でもあったサンドラ・ブランドという黒人女性が「交通違反」を理由に捕まって留置所で死体で見つかったというニュース。警察の発表は「自殺」だが、だれもそんな発表は信じていない。オバマが大統領では初めて連邦刑務所を訪問したし、Kalief Browderたちを自殺に追いやった独居房の廃止も検討されているが、アメリカの人種関係は混迷を極めているというより、もう危機的である。

 

 他方、BET Music Awardでグラフィティで彩られたパトカーの上に乗ってAlrightをパフォーマンスしたケンドリック・ラマーにたいし、FOXニュースのおそらくはお抱えコメンテーターのような存在の、いまどき流行らない口ひげを生やした40年位前のソープオペラに出てくる三流役者のような顔をした自称弁護士が、警官の暴力を棚上げにしながらラマーは暴力を煽っており、コミュニティにとって最大の危機だというような、これまた陳腐でお決まりの時代遅れの頭の悪い批判をしたために、TMZのキャスターはまじめ腐った顔で警官の車に乗ってパフォーマンスなんてなんでそんなことしたん?とラマーに聞かねばならなくなったわけだし、ケンドリック・ラマーのほうもやむなく暴力をあおっているんではないとわざわざ言うまでも無いことを時間を割いて言わねばならないのである。ちなみにこの口ひげソープオペラ親父は2012年に17歳のTrayvon Martinを射殺した白人に無罪判決が言い渡されたときに、同じくFOXニュースでTrayvon Martinは「ちんぴらみたいな格好をしていた」から仕方ないというようなことを言い放ったクソ野郎である、ということをここにしっかりと付け加えておきたい。Black Lives Matterの抗議行動では、にらみをきかせる警官の前で黒人たちが"We gon' be alright! We gon' be alright!"と叫んでいた。そのくらいあのパフォーマンスは影響力を持っていたのだから、あの口ひげは直感的によほどの危機感を抱いたのに違いない。

そしてまた、ケンドリック・ラマーは、フィアンセのホイットニーさんの肌の色が薄すぎるということを、一部の黒人に非難されている。

 

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ちなみにこれはふつうのミュージック・ビデオ

 

 また最近では、シンガーソングライターのJanelle Monaeが、NBCのThe Today Showでのパフォーマンスの終わりに、警官の蛮行で死んだひとびとに神の恵みがありますように!など、人種問題にかかわるメッセージを発し始めたとたん、NBCは彼女の言葉にキャスターの声をかぶせてメッセージを掻き消し、彼女の言葉を聞こえなくした。

mic.com

 

 Black Lives Matterの活動家たちがヒラリーと個人的な会話をした。活動家は言う、問題は白人の暴力だ、と。ヒラリーは返す、あなたがたは女性や同性愛者のように目標をしっかりたててがんばらねばならない、と。だから彼女は平然とつぎのようにいえるのだ、Black Lives Matterではなく、All Lives Matterだと。

 

 これら一連の動きの中でふつふつとある違和感が出てきたのだが、長くなって疲れてきたのでそれはまた次にしたい。ともかくも、奴隷制時代からずっと続いてきていたことがネットのおかげでいまさら顕在化しただけなのか、それとも近年さらにひどくなっているのかよくわからないのだが、これはあまりに酷すぎないだろうか。