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「ヒップ・ホップは暴力を引き起こす」のか?

 「ヒップホップは暴力を引き起こす」のだろうか?たぶんこの問いは、古いものである。でも、この問いに真摯に取り組んだひとはあまりいない。というのも、ヒップホップが嫌いな人間にとって、警察を殺すことやギャングの抗争などの歌詞によって、そして実際に黒人コミュニティで起こっていることやラッパーやだれそれが死んだなどというニュースに日々接していれば、このことはあまりに自明のことのようにおもえるのだし、擁護する人間にとっては、それはただコミュニティの現実を描写したものに過ぎないということになるのであって、双方が双方を完全には否定しきれないために、問いの中身が真剣に検討されることはなく、その主張というものは、主張者の単なる頑なな信念めいたものになってしまうのだ。

 

 だが、このことを突き詰めて考えたのが、トリシア・ローズによるHip Hop Warsの第1章である。

 

 われわれは、暴力的な物語、イメージ、歌詞、パフォーマンスなどの溢れるポピュラー・カルチャーのなかに生きているにもかかわらず、なぜラップだけが暴力を引き起こす主要因として槍玉にあがるのか?それは、その担い手が、アフリカ系アメリカ人だからだ。批評家たちはこう主張する、ラップの物語は、ラッパーの自伝的な要素から成っており、ゆえにその物語が表明していることは、事実である、だから、ラッパーは犯罪者だし、黒人はそもそも犯罪傾向があり、ラップというのは犯罪のプロパガンダなのだ、と。

 

 たいして、ローズはこう主張する。ヒップホップは純粋なフィクションやファンタジーではないし、現実でもないし、暴力を支持する社会的表明でもないし、(生きられた経験や社会的状況から切り離された)個人のイメージの産物でもないし、(現実や個人的行動の正確な描写といった)社会学的記録や伝記でももちろんない。われわれが取り組まねばならないことは、もっとも危険でめちゃくちゃの状態にある黒人の都市コミュニティといった状況を作り出してきた差別や社会政策という現実を知ること、そして同時に、そのような地域的、社会的状況に深く結びついた行為を受け入れたり、その行為について言い訳をしたりしないことだ、と。ヒップホップの暴力は商品にされ、誇張されてきたが、都市コミュニティにおけるその起源や、これらのコミュニティがなぜそれほどまでに暴力的であるのかという理由については理解されねばならない、つまり、このようなラップが出てきたコンテクストを理解せねばならないというのである。

 

 ローズが重要視するそのコンテクストは、おもには5つある。

1.慢性的な高い失業率

2.十分な住居の欠如

3.ドラッグの売買が広がっていること

4.自動小銃と薬の売買によって成り立つ経済

5.それに対する行政の対応が、拘禁であること=黒人の刑務所の収容率が以上に高いこと

 

 こういった社会的コンテクストを無視して、ただラッパーを非難する、ということは、黒人コミュニティだけでなくアメリカ社会における暴力の放置になるというのであるが、ではこのことは、ただ現実を描写しているだけ、というラッパーの主張を擁護することにならないだろうか?

 

 ここからが、この章はおもしろいのだが、というのは彼女が容赦なくつぎのようにいうからだ、「はっきりしていることだが、われわれは、貧困の黒人コミュニティにたいする略奪行為という最悪の形態をつねに強化することで小賢しく儲けているアーティストたちには異議を唱えていかねばならない。ただし、かれらの環境という現実を否定しながらそうするのは意味がない」と。このとき、ローズが念頭においているのは、「儲かるという理由で、暴力的な物語とギャングを過度に強調し、美化する」ジェイZだ(そのほか、50 Cent, T.I. Lil' Wayneなどなど、やっぱりね、な面子である)。そして、暴力にかんして、偏見の無い、社会的に正しい関心の持ち方をすることで、焦点は、コミュニティが暴力をなくしていくよう直接手助けすることへと移っていくはずだ、と論じるのである。

 

 ジェイZに関心を持ったことは一度もないので、あえてミュージック・ビデオをみることもほとんど、というかまったくないのであるが、連想ゲームみたいでなんの関係も無いのだが、同じく嫁のビヨンセにもまったく興味がなく、ビヨンセといえば、その名前の最後のeにアクサン記号があることからもわかるとおり、フランス系の血が混ざっていることを本人がひどく自慢におもっているということが黒人のあいだで批判されていたことと、スーパーボールのハーフタイムショーのギャラがマドンナの半分だった(たしか)ということぐらいしかおもいつかず、つまりジェイZについては、この程度しか知らないし興味も無い嫁以上に関心がない、ということをただついでに言いたいだけなのである。それにしてもやはり、マドンナのハーフタイムショーでのパフォーマンスは、デスティニーズ・チャイルドのほか2名のメンバーを登場させてお茶を濁したビヨンセに比べて、やはり圧巻なのであった。ローズの本にもラップにも何の関係もない。

 

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